オーガナイザーによる分科会紹介


大腸菌から人間まで!?…膜におけるタンパク質の「世話係」

岡部 真裕子(名大・理・生命理学)

昨今、生命科学は進歩の一途を辿り、培養細胞などを使って高等生物を扱う実験が可能になりました。以前、一世を風靡していた(というかそれしか使えなかったのだけどね)細菌学は、既に終わった学問という感があり、バクテリアはその扱いやすさだけで今やDNAの構築やタンパク質を作る「道具」に成り下がっている、という次第。

 ちょっと待ったァ!

「終わっているですって!?とんでもない!私はあなたが思うほど単純じゃないわ!!あなたは私のナニを分かっているというのよ!プンプン!」(←細菌の声?を代弁)

 なんて声が聞こえてきそうと思うのは、私自身バクテリア使いだから、でしょう。だけど実際、細菌の持つ生体のメカニズムはとっても複雑で、今なお色んな研究が成されているもののその機構は謎に包まれています。確かに扱いは簡単なほうですが、その仕組みまでが単純とはいかないのが、生物の面白いところ。でもって、バクテリアを使ってその膜タンパク質に日々頭を悩ませている私が、今とっても話を聞きたくて仕方がないのが、この分科会の伊藤先生なわけです。

伊藤先生の研究室では、大腸菌を使って細胞膜を輸送されて働くタンパク質の品質管理のしくみを、いろいろな角度から研究されています。タンパク質が翻訳の場である細胞質から膜を越えて配置されるために必要なタンパク質膜透過装置、ペリプラズム領域における蛋白質のフォールディング反応を進めるジスルフィド結合形成システム、そして異常な膜タンパク質を分解、除去し膜のクオリティーをコントロールするタンパク質分解系など。そして驚くなかれ、これらは人間やあらゆる生物に保存されているらしいのです。そんなわけでバクテリアの持つこれらの仕組みの解明は、細胞構築の基本原理を明らかにすると共に、より「高等な」生物の理解にも寄与すると期待されています。全長2mm程度の菌体が持つ、生物に共通のメカニズムとは?細菌はまだまだいろんなことを我々に教えてくれる「キンのタマゴ」なんでしょうね、きっと。