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さまざまな環境に生息する細菌叢やウイルス感染症を対象に、バイオインフォマティクス解析、数理モデリングとシミュレーション、データ解析に新たな数理科学的手法を活用する研究を進めている。とりわけ、疾患発症との関わりが深い腸内細菌叢を中心に研究を展開しているが、「数学で知る腸内環境」を標語にして、生命科学や医学、農学に関わる研究者や企業との共同研究を推進している。具体的には、微生物叢が関わる肝臓がんや認知症発症、周産期における母子健康と予後、藻類の突然発生(赤潮)等、数理科学解析の立場から現象の理解につとめている。
一方、対象横断的に共通して存在する課題に対して、数理科学的なアプローチから解決の糸口を探っている。共通する課題とは、時系列データが取得できないという現実的な問題である。ある個人の疾患発症を考えた場合、さまざまな理由で発症前状態のデータは得ることはできない。一方、集団としては健康な状態から発症状態に至るまで、多様なデータを利用できることが多い。そこで課題は、多様な集団データを利用することで、ある個人が発症に至る擬似的なプロセスを集団の非時系列データから推定可能かということである。本研究講演では、有効なアプローチと考えられる擬似時間再構成法(一細胞 RNA-seq データに対して、細胞分化の経路を推定する手法として提案)やエネルギーランドスケープ法(イジングモデルの拡張)を用いることで、非時系列データから発症に至るプロセスを擬似的に復元しようとする研究について紹介したい。