講演概要

異分野融合セミナー・パネルディスカッション

生命現象と科学哲学メカニズム論

松王 政浩 (北海道大学 大学院理学研究院 教授)
#メカニズム論#現象論的生命論#存在論的説明#科学的発見

生命をある種のメカニズムとして捉えようという姿勢は、分子生物学のみならず、およそ生命科学に共通する姿勢であろう。たとえ探求の目的が、詳細なメカニズムの発見ではなく現象の「パターン」発見であったとしても、「観察されるパターンの背景にあるメカニズム」がある程度説明できなければ、予測や理解は成り立たない(Levin 1992)。このような共通認識が生命科学にあるとしても、そこで言われる「メカニズム」とはいったい何なのか。生命科学者は、具体的なメカニズムの例には通じていても、メカニズムそのものを説明するとなると、なかなかうまい答えが見つからないのではなかろうか。

科学哲学は、科学において通常は触れられないような議論の基礎(前提)を、敢えて問題にしようとする。生命現象の基礎にあるとされる「メカニズム」に一定の説明を与えようとする試みもその一つである。現在の科学哲学のメカニズム論は、16, 7世紀のメカニズム論とは明らかに異なるもので、「新メカニズム論」と呼ばれる。こうした議論は、因果論や科学的説明などに関する様々な科学哲学の伝統的トピックを背景に2000年頃から盛んになされるようになってきた。その取っ掛かりとなった議論(Craver & Darden 2000)では、生命現象の基礎にあるメカニズムは、現象を「産出する」、現象の「基礎をなす」、現象を「維持する」という三つの働きを担うが、メカニズム自体は物質的な「エンティティ」と、エンティティによってなされる「活動」を構成要素として成立するものと捉えられている(メカニズムはそのように定義される)。その上で、メカニズムは生命のあり方(存在)だけではなく、わたしたちが生命をどのように捉えるか(認識)、さらに生命をはじめとした様々な科学的対象の説明においても不可欠な概念であると主張される。

このような新メカニズム論は、広い意味での生命理解にどれほど役立つものなのか。この点について、できるだけ平易な言葉で、具体的な例をもとに考えたい。

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