・モチベーション
 生命科学分野は、ゲノムプロジェクトや蛍光タンパク質、近年発展目覚しい分光学、 また近年新たにスパコン京やX線自由電子レーザーといった様々な技術開発の恩恵によって また新たな転換点を迎えています。これら全てに関係し、切り開かれる新しい時代において多 様な分野の融合による「知の創発」を生業とする生物物理学が担うべき役割は大きいと考えられ ます。しかしながら、生物物理若手の会夏の学校は、生化学夏の学校、物性若手夏の 学校などに比べると規模は小さく、支部活動もそれ程活発でないのが現状です。魅力 的な分野であるにもかかわらず、若手研究者の自主的な研究活動が活発化しない理由 は、異なる分野の若手が一緒に活動することに、十分な意義を見いだせていないので はないだろうかと私達は考えました。

 今年の夏の学校では、若手研究者の活発な活動の基盤を作るべく、生物物理学の魅力 を最大限引き出すための軸を模索しました。「生物物理とその周辺分野」の「若手研究者の主体的な研究活動」にしかできないことは何か?多様な講演を聴き分野外の研究者と酒を飲み交わす以外に、活動する目的を何に見出すべきなのか? こうした問に真剣に向き合い、出した答えが今年の生物物理若手の会夏 の学校です。「時代人として今をどう乗り越え、面白く生きてゆくのか」のヒントと なるべく見出した新しい夏学の新しい企画をここに紹介します。
 私たちは、参加者がより主体性をもって夏の学校に参加できる「夏の学校」にするため、3つの新しい試みをしました。これらの試みを通して、メインシンポジウムにこれまで取り上げられることのなかった(かつ夏学でする意義がとてもある)テーマを設定し、分科会の講演に目的意識をもたせようとしました。

・新企画1:トランスレーション

 今回の夏の学校では、各講演後、複数の若手研究者が感想・意見を講演後に述べる「トランスレーション」という試みを行います。生物物理がもつ多様性を最大限に生かし、生命科学に加え分子・物性・数理・情報など様々な分野の若手研究者が、講演に対して「何が面白かったか」「何について批判的に感じたか」を述べ合う事で、参加者に同じ講演に対する多角的な理解と若手研究者自身による講演の積極的な意義付けを促します。

・新企画2:座長制分科会

 生物物理夏の学校では、生物物理学が持つ多様性を尊重し、参加者が複数の講演に分かれて話を聴く分科会というものがあります。例年、各講師がそれぞれ1人の若手研究者がオーガナイズしたセッションで個別に講演していました。今年は、2つの講演を1つの分科会とし、新たに各分科会に座長を設け、分科会にテーマを設定することにしました。複数の講演者による分科会にすることで、講演内容の対比・比較・共通点の発見などが出来るようになり、講演の意義付けがよりしやすくなると考えたからです。

・新企画3:講師個人が持つ展望の論説

 毎年メインシンポジウムでは、複数の講師がひとつのテーマについて講演しています。今年は「次世代の生物物理学」をテーマとして掲げました。 「生物物理学とは何か」というテーマの下、「現在、そして次の世代を創る上で生物物理学にとって何が重要なのか」という問に対する展望(*)を講師陣にご講演いただきます。講師が話す展望は教科書や論文に掲載されている内容と違い、ピアレビュー(他の専門家による検証)を経ていません。したがって学部までに受けていた授業とは違い、講師は講演を通じて「学ぶ材料」を提供するのではなく「考える材料」を提供することになります。若手研究者が質問などを通して講師陣の展望を積極的に意義付け評価することで、若手研究者自身が見出す「次の1ページ」は何かについて考えます。

(*)参照 メインシンポジウムの講演者にお願いした予稿
生物物理系の先生向け:
「次世代の生物物理学」は何か:次を担う若手研究者に向けて.pdf
非生物物理系の先生向け:
「次世代の課題」は何か:次を担う若手研究者に向けて.pdf

(文責:副校長 永幡裕)

今年のテーマ

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